「モルモン書」の袋とじ「エテル書」
『モルモン書』の中でも群を抜いてデタラメとトンデモが満載なのが「エテル書(ヤレド人の記録)」です。これはモルモン書批判者にとってはまさにトンデモ、デタラメそして噴飯の宝庫。モルモン書の袋とじとでも言うべき、『楽しい』箇所です。
この「エテル書」はモルモンがいったん金版を閉じた後、息子モロナイがこれを書いたという設定になっています。ヤレドの一族がバベルの塔の付近からアメリカ大陸へ移住してきて滅びるまでを書いたモルモン書の二番煎じなのですが、モルモン書がインチキであることを知るには格好のダイジェスト版となっています。
私個人としては宣教師やモルモン教徒が何と言おうと、ここから読んで貰いたいものですね。
気密性抜群の「木製潜水艦」(エテル書 2〜3章)
リーハイの時代の遥か昔、バベルの塔での人間の驕り高ぶり故に神によって人の言葉が乱されたとき、ヤレドの一族は懸命に祈ったために同じ言葉を保つことができました。彼らは神から新大陸(アメリカ大陸)へ向かうように啓示を受けます。
要するに先に書いたリーハイの物語の二番煎じなわけですが、今回ヤレドに命じられた船はなんと潜水艦だったのです。それも木製と言うから驚きです。木と木の継ぎ目をどう始末したのか、現代人なら即、疑問に思うでしょう。ハッチやバラストタンクなど「木では作られへんやろ」とも思うでしょう。ここをそのまま違和感なく読み進めるのは、マインドコントロールされた信者だけでしょうね。
ちなみにジョセフが潜水艦を着想したのは、アメリカ独立戦争(1776年)で投入された世界初の個人用木製潜水艦「タートル号(Turtle)」や、1800年にロバート・フルトンが開発した「ノーチラス号」のニュースの影響と言われています。
神は、水が入らないよう「二枚の皿を合わせたように密閉」された構造を指示しています。これだと「空気が吸えない」という致命的な問題があります。ヤレドの兄弟が酸欠を心配して神に相談すると、神は「上と下に穴をあけ、酸素が欲しくなったら上の栓を抜け。水が入ってきたら栓を閉めろ」と回答します。これが全く解決にならないことは後述します。
とりあえず彼らは指示に従います。
電気のない時代、当然昼も夜も潜水艦内は真っ暗です。ヤレドの兄弟が神に問うと、なんと神は「どうして欲しいのか?」と逆に問うてきます。なんとも無責任な! そこで兄弟が山から透明な小石を16個作って持ち出し、神に「指で触って光らせてください」と提案すると、神が指で触れ、なんとピカピカ光る夜光石が完成します(ここでヤレドの兄弟は神の「指」を初めて目撃します)。この光る石のアイデアはノアの伝承(聖書にはない)のパクリです。
ヤレドの兄弟は最も大事なことを質問し忘れます。神も質問がなかったせいでしょうか、指示しませんでした。それは乗り込む人間や動物の排泄物の処理方法です。
人も積み込んだ動物も普通に排泄をします。船内は密閉されているので、排泄物は船内に溜まり続けます。兄弟も神も、排泄物の処理方法は全く考慮せずに船を作ってしまったのです。
モルモン擁護者は上下の穴(通気口)を活用すれば良いと簡単に言いますが、この穴こそがほとんど使用不能なのです。
使い物にならない上下の通気口
排泄物を最も簡単に処理するのは海洋投棄です。でも、潜水艦であるヤレド一行には通気口からの排出しか方法がありません。おまけに航海の状況は以下のようなものでした。
「彼らは度々海の中に沈められた。山のような大波が彼らに打ちかかったからである……」(エテル書 6:6-10)
海上に浮上しているとき、上の通気口を開けて捨てるという超非効率な方法しかありませんが、窓もない船内からはいつ浮上しているかも分かりません。ヘタに開けるとあっという間に浸水します。もちろんこれは排泄物処理の時だけでなく、空気の入れ換えの時でも同じです。空気の入れ換えについては、浮上中に開けることができても、上の穴ひとつでは十分な空気の入れ換えはできません。風通しを良くしようと下の穴を開けると浸水し、あっという間に沈没します。
擁護者はコップを水中に押し当てて空気がコップの上部に残る原理(ムーンプール説)を論拠に「下の穴を開放しても海水は入ってこない。下の穴からゴミを捨てれば良い、釣りもできたのではないか」などのんきなことを言いますが、これは実際不可能です。
①下の穴が開いているときには絶対に上の穴は開けられません。
②上の穴が閉まっていて下の穴を開ければ、水圧と船内の気圧が均衡するまで海水は入って来ます。この時点で船内の気圧は水深に応じて上がります。相当不快な状態になり、ヘタをすると鼓膜が破れます。動物は間違いなくパニックとなり船内で大暴れするでしょう。
③お風呂場などでの実験と違って海中の波(うねり)で船は上下左右に揺れます。沈めば海水は増加しますし、浮けば海水は減ります。でも、空気は増えません。気圧が変化するだけです。下の穴を塞ぐためには浸水した海水の中での作業になります。揺れの中で汚物にまみれながら手探りの作業になります。万が一成功しても海水は残ります。
④①から③までの内容も、揺れても船がまっすぐを保っていた前提です。船自体が傾くとこのバランスは崩れます。穴からボコボコ空気を吐きながら海底へと沈んで行くことになります。
結局、全く役に立たない(特に下の穴に関してはそう)ことを神は指示していたということになります。
順風航海344日
激しく波にもまれ、ときに海中深く沈みながら進む不安定極まりないヤレドの船ですが、それでも、筆者の感覚では……
「主なる神は、水の面に約束の地に向かって吹く激しい風を起こされた。そのために、船は追い風を受けて海の波の上を運ばれて行った。(略)船が海上にある間、風は一度もやむことなく約束の地に向かって吹き続けた。」(エテル書 6章)
ということになるようです。
ともあれ、この順風航海は344日に及びました。研究者によれば、風や潮流任せの漂流船や手漕ぎボートであっても、旧大陸(中東・ユーラシア)からアメリカ大陸への移動は、通常100日〜150日前後(約3〜5ヶ月)程度で到達可能とされます。地球を軽く一周するくらいの日数がかかってしまっていることになります。
ヤレドの運んだもの
少し先走りました。出発時に戻って、紀元前2000年以上のヤレドらの潜水艦の荷物をチェックしておきましょう。これまたリーハイの時と同じで、古代近東や紀元前の南北アメリカ大陸には存在しなかった(ヨーロッパ人が持ち込むまでなかった)はずの動物や概念が、ヤレド人の時代に当たり前のように登場します。
①ミツバチ(デゼレト):バベルの塔からミツバチを連れて航行。ミツバチをデゼレトと言ったのは「ヤレド語」という設定です。この言葉を現代のモルモンは大好きでそれはそれで勝手にすれば良いのですが、肝心の養蜂は、残念ながら17世紀まで発明されていませんでした。ミツバチ自体もアメリカ大陸には生息していません。コロンブス以降、欧州からもたらされたものです。古代エジプト、メソポタミアなどでは、ミツバチは巣を狩るものでした。ハンターたちは命がけで巣を奪い、蜜や蜂の子を得ていました。
②鉄・製鉄・鋼の剣:紀元前のヤレド人が高度な製鉄技術を持ち、鋼の剣や兵器を大量生産。
③馬、ロバ、ゾウ。シルク、金銀財宝:古代アメリカの考古学・生態系を完全に無視した豪華な生活様式。
一体、馬やロバ、挙句はゾウを運ぶのに潜水艦の製造を指示する神なんてどうかしています。まったく非合理です。リーハイの時のように普通の船にしておけば「荷物が時代錯誤だ」と言うだけで済んだというのに……。ジョセフは単に二番煎じを嫌ったのでしょうね。
ヤレド人の凄絶なる滅亡
ヤレド人の歴史の最後は、人類史上まれに見る壊滅的な内戦で幕を閉じます。これもモルモン書の二番煎じですね。
アメリカ大陸でヤレド人の人口は爆発、そして内戦から絶滅に至ります。最後はコリアンタマー王対反乱者シズの最終戦争において、すでに「男も女も子供も合わせて200万人以上が死んだ」と記録されています(古代の人口規模としてはあり得ない数値)。
最後は国中の男女、子供に至るまで鎧と盾で武装し、全員で殺し合い。最終的に生き残ったのが軍隊のトップ2人(コリアンタマーとシズ)だけになるまで戦い続けます。全員が命を落とすまで止まらない極限の戦いです。逃亡者も負傷者もいない、あり得ない世界です。
こういうストーリー自体が成立するとは到底思えないのですが、最後の最後は本当にぶっ飛びの結末です。
伝説のオチ:「首なし人間の腕立て伏せ」(エテル書 15:30–31)
エテル書最大のハイライトであり、批判者からも最も愛されている(?)伝説の箇所です。
最後の戦い、コリアンタマーとシズの一騎打ち……
「コリアンタマーは剣に寄りかかって少し休んでから、シズの首を刎ねた。コリアンタマーがシズの首を刎ねると、シズは両手で起き上がって倒れ、呼吸をしようともがいた後、死んだ。」(エテル書 15:30-31 参照)
首を斬られた後に起き上がる! 首(脳)を完全に切断されたはずのシズが、なぜか腕で体を支えてムクッと起き上がります。そして、首がないのに「呼吸をしようともがく」。いや! 首が切断されて死んでいるのですから、もう酸素は必要ないでしょう。
擁護者の言い訳もなかなかの面白さですので紹介しておきましょう。
「完全な首チョンパではなく、脳幹の一部が残るような斬り方だったため、反射運動で腕が伸び(除脳緊張)、胸郭が動いて呼吸しようとしているように見えたのだ!」という、非常に苦しい医学的(?)弁明を論文で発表しています。お疲れ様です。
これだけで検証が終了するパワー
エテル書はわずか15章に過ぎませんが、モルモン書のトンデモが凝縮されています。ここからマインドコントロール脱出の糸口とするのが良いのではないでしょうか。