宝探し詐欺の挫折から宗教ビジネスへ

モルモン教(末日聖徒イエス・キリスト教会)の公式歴史では、創始者ジョセフ・スミスが天使モロナイから訓練を受け、神の導きによって『モルモン書』を出版し、教会を設立したと美化されています。しかし、当時の法廷記録や客観的な歴史事実を紐解くと、そこには「ペテン師としての挫折」と、そこから這い上がるために仕掛けられた「巧妙な転換」を看て取れます。

① モロナイ遭遇から金版入手までの「空白の四年間」

1823年月、17歳のジョセフは天使モロナイ(初期の記録ではニーファイ)と出会い、クモラの丘に埋められた金版の存在を知らされます。導かれ金版を発見したジョセフでしたが、モロナイから「年に1回、同じ日にここへ来なさい。入手は4年後である」という、おあずけを食らいます。まだ、翻訳者としての準備ができていないからとのことなのです。しかし、一年に一回の「面会」に過ぎない訓練に、一体どれほどの効果があったのでしょうか。

現在の教会はこの期間を「預言者としての神聖な訓練期間」と呼びますが、歴史的事実は全く異なります。この4年間こそ、ジョセフが地中に埋まった財宝を当てる「ピーパー(透視者)」として、埋蔵金詐欺ビジネスに狂奔していた絶頂期した。しかし、1826年3月、彼はニューヨーク州ベインブリッジで占いによる詐欺容疑で逮捕され、裁判で有罪判決を受けます。この「詐欺師としての挫折」こそが、彼の人生の大きな転換点となりました。

時期 公式の建前(教会が教えるストーリー) 歴史的真実(客観的な記録)
1823年〜1827年 天使モロナイによる神聖な預言者としての訓練期間(年に一回の面会) 見者の石を帽子に入れて財宝を探す「宝探し詐欺」の絶頂期。1826年に逮捕・有罪。
1827年9月 神の定められた時が満ち、クモラの丘から神聖な「金版」を掘り出す 法律的に限界を迎えた埋蔵金詐欺から、「本(物語)の出版」による一攫千金ビジネスへの転換。

② 実母の証言が暴く「昔から語りなれていた夢物語」

1827年9月に金版を「入手」したジョセフは、口述筆記(翻訳)を開始します。教会側は『モルモン書』を「神の啓示による翻訳」と主張しますが、ジョセフは金版を手にする数年も前、10代の頃から、のちに『モルモン書』の主要な舞台となる「古代アメリカ先住民の空想譚」を家族に熱弁していました。

この事実を裏付ける、極めて決定的な歴史的証言を書き残しているのが、彼の身近にいた実の母親(ルーシー・マック・スミス)です。彼女は回顧録の中で、ジョセフが10代の頃に家族を集め、古代アメリカの住民の服装、旅の手段、戦争の様子、宗教的儀式について、まるでずっと彼らと過ごしてきたかのように生き生きと細部にわたって説明していた様子を記録しています。つまり、彼は神から与えられる前から、頭の中で温めていた独自の「夢物語」を語りなれていたのです。

③ ハリスへのマインドコントロールと「モルモン書」出版の失敗

この得意の空想譚を天使から授かった金版に記されたものとして、翻訳した本を売り出して一儲けしようとしたのが彼の次なる手口でした。その出版ビジネスのために、ジョセフが目をつけたのが地元の裕福な農夫マーティン・ハリスでした。ジョセフはハリスを巧妙なマインドコントロールにかけ、金版の信奉者に仕立て上げます。そして『モルモン書』の印刷費用を調達するため、ハリスに自らの広大な農地を担保に入れさせ、実質的に破産に追い込んでまでして費用を巻き上げました。こうして1830年3月、初版5,000部で『モルモン書』が出版されます。

しかし、一攫千金を狙ったジョセフの思惑とは裏腹に、『モルモン書』は世間から「ペテン師の創作ファンタジー」と見抜かれ、全く売れませんでした。出版ビジネスは、あっさり破綻したのです。

④ 知的な片腕カウドリの存在と「教会設立」への急旋回

本の出版だけで稼ぐ計画が頓挫したジョセフでしたが、彼には既に次の策がありました。神聖な翻訳者である彼が預言者として教会を設立することでした。今や彼には強力な参謀がいました。1829年4月に出会った元学校教師のオリバー・カウドリです。法律や宗教の知識に長け、優れた文章力を持つ知的な片腕であるカウドリの協力を得たことで、ジョセフは教会設立へと舵を切ります。

書籍としての魅力がなくとも、それを「神の言葉」として崇める信者コミュニティを作り上げれば、自らは教祖として君臨し、長期的に富と権力を握ることができる(稼げる)と気づいたのです。彼らは『モルモン書』出版からわずか一箇月後の1830年4月、計画通りに独自の教会を設立します。10代の空想譚から始まった泥臭いペテン劇は、軍師カウドリを得たことで、最強の宗教ビジネスへ変貌したのです。

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