モロナイ?ニーファイ?

現代のモルモン教(末日聖徒イエス・キリスト教会)では、「1823年にジョセフ・スミスのもとを訪れ、金版の隠し場所を告げた天使はモロナイである」と教えられています。しかし、教会の初期の公式記録を紐解くと、驚くべきことにその天使の名前は一貫して「ニーファイ」と記録されていました。なぜ神聖なはずの天使の名が途中で変わってしまったのか、一次史料をもとに検証します。

① ジョセフ・スミス自身の生前の記録はすべて「ニーファイ」だった

神からの使者の名前という、人生を揺るがす大事件の記録が、後年になってひっそりと書き換えられています。その決定的な証拠となるのが、当時の教会の公式機関紙『Times and Seasons(時の兆)』です。この新聞は個人の同人誌ではなく、1842年当時、ジョセフ・スミス自身が公式に編集長(Editor)を務め、内容に全責任を持っていた最重要メディアでした。

その1842年4月15日号に掲載されたジョセフの公式な自叙伝(現在の聖典『高価な真珠』に収録されている歴史の初版)の実際の紙面がこちらです。

Times and Seasons 1842年4月15日号の紙面
教会機関紙Times and Seasons, 15 April 1842

そして、この紙面の中で天使が枕元に現れた瞬間を記述した重要な該当部分を拡大したものが、以下の画像です。

Nephiと印刷された該当部分の拡大
【画像の赤線部分の和訳】
私は恐れたが、その恐れはすぐに私から去っていった。彼は私の名を呼び、自分は神の御前から私のもとへ遣わされた使者であり、その名はニーファイ(Nephi)であると私に告げた。神は私に成すべき業(わざ)を与えておられ、私の名がすべての国民、部族、国語の民の間で、良くも悪くも知れ渡るようになり、あるいはすべての民の間で、良いことも悪いことも語られるようになるであろうと告げた。

拡大画像の中の赤いアンダーラインで示されている通り、はっきりと 「his name was Nephi(その名はニーファイであった)」 と印刷されています。ジョセフ自身が目を通し、編集長として世に送り出した公式メディアに、くっきりとその名が刻まれているのです。

② 他の初期史料にも残る「ニーファイ」の足跡

天使の名前を「ニーファイ」としていたのはこの新聞だけではありません。ジョセフの周囲の人物や、他の公式文書にも同様の記述が複数存在します。

このように、ジョセフ本人、家族、精度が高かったはずの当時の教会組織全体が、最初は「モロナイ」ではなく「ニーファイ」という名前でこの出来事を公式に記録・共有していたのです。

③ なぜ後から「モロナイ」へと書き換えられたのか?

現在の聖典『高価な真珠』(ジョセフ・スミス・歴史1章33節)を見ると、この文章は全く同じ内容のまま、天使の名前だけが「名をモロナイと言うと告げた」に書き換えられています。ジョセフが1844年に暗殺された後、ブリガム・ヤングらの指導部によって過去の記録がコッソリと修正されたためです。

教会側は「単なる筆記者の書き間違い(誤記)だった」と弁明していますが、預言者であり編集長でもあったジョセフが、自身の公式機関紙で何度もその重大な名前を見落として出版したというのは極めて不自然です。歴史研究者の間では、以下のストーリーの整合性を取るために、後から設定が「編集」されたと考えられています。

登場キャラクター モルモン書内での役割 設定変更のロジック
ニーファイ 物語の「最初」に登場する預言者 金版を最後に埋めた人物ではないため、場所を教えに来る役としては物語上の筋が通らない。
モロナイ 物語の「最後」に金版をクモラの丘に埋めた人物 「自分で版を埋めた本人が、のちに天使となってその場所を教えに現れた」とする方が、劇的でストーリーの整合性が取れる。

④ 結論:「最初の示現」と同じ肉付けの構図

人生を決定づけたはずの神聖な神秘体験において、現れた天使の名前がジョセフの頭の中で二転三転し、後年の教会の手によって過去の機関紙や聖典の記述がコッソリ修正されているという冷徹な事実。これは、「最初の示現」において現れた神の数が1人から2人へと後から増殖していったトリックと、全く同じ構造を持っています。

『モルモン書』やそれを巡る数々のエピソードが、最初から確定していた歴史などではなく、人間の手によって後から都合よく「編集・肉付け」されていった創作物(神話)であるということを、この『Times and Seasons』の紙面は何よりも雄弁に物語っています。

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